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棚田の環境的意義2.棚田とは棚田に関連するキーワードを,写真を交えながら紹介します.(1) 棚田の定義 |
「1/20以上の傾斜地にある水田」というのが最も一般的に用いられている棚田の定義です(中島,1999).ここではこの定義に沿って議論を進めます.棚田は全国に22万haあります(現在イネを作付けしていないものを含む).これは東京都の面積とほぼ同じ.全水田面積の8%に相当します.
傾斜地にあることから,水田の区画を大きくすることは困難で,また形も長方形には整えにくくなっています.こうした「小区画・不整形」であることが多くの棚田の特徴となっています(ちなみに通常の水田の「標準区画」は,縦100m×横30m=3000m2(=30a)です).また,農道の整備が遅れている地区が多いことも特徴です.(なお,中には等高線に沿って細長い長方形に整備されている棚田地区もあります).
東京と沖縄を除く日本全国に分布していますが,西南日本の方が多めです(2/3が西南日本に存在).また,東北日本の棚田はあぜが土で作られているものが多いのに対し,西南日本の棚田はあぜが石積みになっているものが多いようです.
棚田の多くが存在している地域は,山の中腹などで平坦な土地があまりない地域,いわゆる「中山間地域」です.平地に比べて生活条件も耕作条件も不利とされていることから,農業の衰退化のみならず,地域の過疎化が問題となっている地域も少なくありません.
こうした条件不利な地域で,大昔に急な斜面を大変な思いをして整備して棚田が作られたのはなぜでしょう.
水田は,水田そのものだけあればよいというものではありません.上流に水源があって,そこから水を運んでくることができなければ水田での耕作は大変難しいものとなります(水源がなく雨水だけに頼った水田を「天水田」といいます).このように,水田と用水とは切っても切り離せない関係です.
棚田が存在している中山間地域には,必ずといっていいほど上流に山林があります.その山林や,人工的に作った溜め池に溜まった雨水を使って棚田は灌漑されています.水路工事の技術の乏しかった大昔には,平地の水田よりも棚田の方が水源の確保は容易だったのではないでしょうか.このことが,大昔に傾斜地に棚田が整備された理由だと考えられます.
特に挙げておきたいものを順不同でいくつか.挙げられなかった地域はごめんなさい.
- 長野県更埴市姨捨地区
「おばすて伝説」はご存知でしょうか.その姨捨地区の棚田です.東京から高速道路で3時間くらい.日本で最も有名な棚田地区のひとつといえるでしょう.
「田ごとの月」という言葉もこの地区に由来のものです.田植え前に水をはった棚田1枚1枚が鏡のようになって,満月を映し出すという月の名所です.
- 石川県輪島市「能登の千枚田」
こちらもよく知られている棚田地域です.海岸沿いに無数の小さな区画が並ぶ景色は壮観.
「千枚田」とは棚田の別名.雰囲気が出ています.
- 千葉県鴨川市「大山千枚田」
東京から高速バスで2時間,鴨川シーワールドで有名な鴨川市は,海岸沿いの街というイメージがありますが,海岸から車で20分ほど丘を登ったところに棚田が広がっています.「東京から一番近い棚田」がキャッチコピー.
5年ほど前から棚田としての再整備が行われ,今日では規模は大きくないですが,すり鉢状でたいへんおもむきのある棚田地区となっています.この地区の特徴は完全な天水田であること.今や極めて貴重だとのことです.
茨城大学からも比較的近いため,著者もこれまで数回調査に訪れている場所です.
- フィリピン・イフガオ「コルディレラのライステラス」
海外の棚田をひとつだけ紹介.ユネスコの「世界遺産」にも指定されたもので,幅は2m〜20m,段差は2m〜5mとのこと.写真はお見せできませんが(田渕,1999をご参照下さい),あぜを補修している人が豆粒のように小さく見えるほど,急な崖に作られています.
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棚田の様子です.左の写真は初夏.あぜの草刈りをしている人がいますね.右の写真は夏の様子です. 1枚1枚の区画が小さいこと,形が長方形になっていないことに注目してください. |
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左は収穫時期です.すでに刈り取りを終わった棚田と,これからのところが混在しています. 右は秋の収穫後です.刈り取った稲穂はこのように逆さまに引っかけて天日で乾かします.この方が美味しいお米ができるそうです. |
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| ここは少し大きめの区画に整備されている棚田です. 傾斜が緩やかだったこと,後継者がいるために整備にお金をかけられたことから,このような形に再整備できました. 平地の水田に比べればまだ小さいですが,それでもだいぶ作業は楽になります. |
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| これは一風変わった棚田です.法面(のりめん)が石垣のように石を積み上げることによって固められています.こうした「石積みの棚田」,実は西日本に多く見られます. | |
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| 農作業機械はこのような狭い道で運びます. もちろん小さな機械しか使えませんし,手作業に頼らざるを得ないところも少なくありません. |
地滑りをおこした水田です. 管理が悪い棚田はあぜが崩れたり,地滑りを起こして田そのものが崩れることがあります. |
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| 耕作が放棄されてしまった棚田です.高齢化や離農などで水田に手をかけることができずに,耕作を止めてしまったものと思われます. 左に小さく見える水田にはイネが植えられていますが,右の水田は管理されておらず,雑草が生え始めています.数年後には雑草が伸びて,周辺の水田に迷惑をかけることになります. こうした「耕作放棄田」は,中山間地域をはじめとして大きな問題となっています. |
棚田は耕作を継続することが困難ですが,地域によっては「棚田オーナー制度」を行っているところがあります. これは,農業体験をしたい人や棚田の支援に関心がある人に,有償で棚田を貸し出し,田植えや稲刈りなどの大変な農作業は手伝ってもらおうという制度です. 地元のボランティアが日常の管理をしたり指導したりしますので,「農村と都市の交流」も図れます. |
以上が棚田の概略です.棚田の特徴や現状,関連するキーワードは一通りご紹介いたしました.ここまでで,棚田に対してどのような印象を持ったでしょうか.
皆さんが感じたであろう印象は,以下の2点に集約されると思います.この両極端な意見,どちらが正しいとか間違えているというつもりはありません.
- 棚田は美しいものだし,大昔から受け継がれてきている遺産でもある.だから今後もなんとか残していって欲しい.
- 棚田は傾斜地にあるし小さいから,耕作も管理も大変そうだ.イネの収穫量も多くないのではないか.耕作が放棄されるところがあるというのもわかる気がする.
このあと,もう少し棚田について勉強してみてから,改めてどんな印象を持つかを考えていただきたいと思います.